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ヴァーディーさんの小説を転載しました。
ホラー作品です。

初出:http://vardhi.blog75.fc2.com/blog-entry-178.html

壱、旅館へ案内致します。


山々の間を蛇行しながら川が流れている。
ところどころから湯気が立ち上るここは、そこそこ名の知れた温泉地だ。
この温泉街のはずれに、一軒の旅館が建っている。
その旅館はとても古く、昭和の初めからあったらしい。
木造二階建てのこの建物からは、とても歴史が感じられる。
ここの宿泊料は格安で、ここの温泉地の中ならダントツの安さだ。
しかし、地元の人は全くと言っていいほど利用しない。
料金がここまで安いのなら、繁盛してもおかしくはない。
旅行で訪れた人が、この料金に釣られて泊まることがある。
地元の人は、口をそろえて言う。
「やめておいた方がいいよ・・・・・・ あそこはね・・・・ あそこは・・・・・・」


この温泉地の奥に「梁俵山(りょうひょうざん)」という山がある。
このあたりのでは一番高い山で、登山客も多い。
しかし、昔から語り継がれていることがある。
この山を登った人の数人に1人は、登った後に必ず気分を悪くする。
ただ、標高が高いから、軽い高山病にかかったのでは?
と流されるが本当にそうなのだろうか。
それを知っているからだろうか、地元の人がこの山に登ることはほとんどない。

今日は土曜日だ。たくさんの登山客が梁俵山の頂を目指し今日も山を登っていた。
その登山客の中に、一組の家族がいた。この家族は三島家といった。
三島家は4人家族で、都会に住むごく普通の家族だった。
家族旅行ということで、この山を登り温泉を楽しむ、という計画を立てていたようだ。
「お父さん。待ってよぉ・・・・・・。」
娘の涼子が早歩きで歩く父の雄三を引きとめようとする。
「あとちょっとで頂上だ。がんばれ!」
父の雄三はただ励ますのみ。涼子は渋々ついていった。
母の美幸(みゆき)と長男の浩二も無言で父のあとに着いて行った。

やがて、木々がなくなり、
いよいよ高山だなと感じ取れる風景がまわりには広がっていた。
そろそろ足も疲れてきたころだ。
霧が深くなり、視界も悪くなってきた。まだ昼前なのに。
しばらく歩くと、ようやく視界が晴れ、頂上が見えた。
「見えた!おい、美幸!浩二!涼子!着いたぞ!」
雄三は1人駆け出した。美幸は2人の子供を連れ、あとからゆっくりと歩いていった。
頂上には大きな鐘があった。
お寺にあるほどではないが、かなり大きな鐘だ。
表面にはお経のようなものが刻んであるが、
風化しているため読み取ることはできない。
雄三は1人走って行き、その鐘を鳴らした。
ゴォ~~ン・・・ゴォ~~ン・・・
低い鐘の音が山々の間を響き渡る。
父は笑みを浮かべてこちらを向いた。
「どうだ?頂上ってのは気持ちいいだろう!?」
ここまで幸せそうな父の顔はあまり見ない。
父は近くにあった岩に座り込んだ。景色を眺めているようだ。
母の美幸と、浩二と涼子は金を鳴らすような元気は残ってなく、
くたくたと座り込んだ。

数分が過ぎて、突然父が立ち上がった。
「下りるぞ・・・・・・。」
父は言った。さっきまでの元気はどこにいったのやら、急にダルそうな顔になっていた。
顔はどことなく青くなっていて、気分が悪いのか?と推測できた。
「え?もう下りる?」
浩二が聞く。
「満足しただろ・・・・・・。いいから降りるぞ。」
もうちょっと休憩したいというのが本望だったが、しょうがなく着いていった。
温泉地に出るためには、登りとは別の道を行かなくてはならない。
温泉地自体、かなり高いところにあるので、登りよりは楽だという。

父を先頭に、再び歩き始めた。
行きはあんなに元気だった父だったが、今はフラフラとふらつきながら歩いている。
涼子が数度「まだぁ~??」と尋ねたが、父は返事をしない。

しばらく歩き、やっと湯気が立ち上る温泉地が見えてきた。
浩二と涼子はうれしそうに駆け下りたが、父は表情ひとつ変えず歩いている。

泊まる旅館は特に決めてはいなかった。
なので、良い旅館を探す、ということにしていた。
涼子が豪華な旅館を見つけ、指差してこう言った。
「お父さん!ここに泊まろうよ!」
しかし、父は見向きもせず、無言でどこかへ歩いていった。
「お父さん・・・・・・待って!」
慌てて父のあとを追いかけた。

父の見ている先には、一軒の旅館があった。
木造二階建てで、相当古い建物だ。そう、それは紛れもなくあの旅館だった。
父は躊躇いもなしに歩いていった。
美幸が止まり、浩二と涼子に言った。
「ここで、いいわね?安いし。」
浩二は縦に首を振ったが、涼子は駄々をこねた。
「いやだぁ・・・・・・さっきの旅館がいいの!」
そう言ってるうちに父はもう中へと入っていた。
「涼子、行くわよ。」
美幸は涼子の手を取り、その旅館へと歩いていった。
陽が沈もうとしている。不気味なまでに紅い夕陽が、その家族の背中を照らしていた。

地元の人は、あの梁俵山にはほとんど登らない。
地元の人はあの山のことをこう呼ぶそうだ。
「霊憑山(りょうひょうざん)」
書いて字の如く、霊の憑く山。
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